訪問看護は医療的ケアが必要な利用者をサポートしてくれる心強いサービスです。介護保険の認定を受けている人は基本的に「介護保険」で訪問看護のサービスが提供されます。しかしそのような人でも、場合によっては「医療保険」で訪問看護が提供される場合があります。ここでは介護保険の認定を受けている利用者がどんな時に訪問看護が医療保険で提供されるかについて、学んでいきましょう。
高額介護サービス費とは、1か月に支払った利用者負担の合計額が、それぞれ定める自己負担の限度額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度だよ。給付を受けるにはもちろん申請が必要。高額介護(予防)サービス費は年々基準額が見直しがされているね。
要介護者等であっても、
①末期の悪性腫瘍や難病患者等の場合
②特別訪問看護指示書が出されている場合
③精神疾患を有する者を対象とした精神訪問看護基本療養費を算定する訪問看護を行う場合
は医療保険での訪問看護サービスの提供となります。では詳しく内容を見ていきましょう。
末期の悪性腫瘍や難病患者等の場合
癌にかかっていても、最期まで住み慣れた自宅で過ごしたい。そのような希望を持たれている利用者さんがいますね。その利用者さんが、末期の悪性腫瘍であると医師から診断を受けた場合に提供される訪問看護は医療保険で提供されます。よく介護の現場では終末期の事を「ターミナル」と称す事が多いですが、ここで注意頂きたいのがそれが「末期の悪性腫瘍」であるという事です。「末期の悪性腫瘍」と診断されている間は訪問看護はずっと医療保険の提供となります。
要介護・要支援者のうち厚生労働大臣が定める以下の病名に該当する場合は、訪問看護が医療保険で提供されます。
- 末期の悪性腫瘍
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- 筋萎縮性側索硬化症
- 脊髄小脳変性症
- ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症
- パーキンソン病関連疾患 (進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類 がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))
- 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)
- プリオン病
- 亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頸髄損傷
- 人工呼吸器を使用している状態
パーキンソン病は、重症度と生活機能障害度によって医療保険の対象となるかどうか決まります。その基準はホーエン・ヤールの重症度分類 がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限るとされています。では、その内容を見ていきましょう。
ホーエンヤールの重症度分類
ステージⅢ
歩行障害が明確となり、方向変換や押されたときの不安定さなど姿勢反射障害がみられる。身体機能はやや制限されているものの、職業の種類によっては、ある程度の仕事も可能である。身体的な独立した生活は遂行できる。その機能障害度はまだ軽度ないし中等度にとどまる
ステージⅣ
無動は高度となり、起立・歩行はできていも障害が強く、介助を要する事が多い。姿勢反射障害は高度となり、用意に転倒する
ステージⅤ
一人では動けないため、寝たきりとなり、移動は車椅子などによる介助のみで可能
生活機能障害度
Ⅱ度
日常生活、通院に部分的介助を要する。
Ⅲ度
日常生活に全面的介助を要し、 独立では歩行起立不能。
上記の病気の利用者さんは、医療保険による訪問看護を週4日以上受ける事ができるよ!
特別訪問看護指示書が出されている場合
訪問看護を利用していると、よく「特指示」なんて言葉を聞く事はあるのではないでしょうか?その正式名称は「特別訪問看護指示書」です。通常の訪問看護指示書と合わせてこの「特別訪問看護指示書」が出された場合は、訪問看護は医療保険で提供されます。その訪問看護の指示書は14日を限度として、月1回まで出す事ができるとされています。
では、その特別指示書を出せる時というのは、どんな時なのでしょうか?
患者の主治医が、診療に基づき、急性増悪・終末期・退院直後等の事由により、週4回以上の頻回の指定訪問看護を一時的に当該患者に対して行う必要性を認めた場合に特別指示書が出されます。特別訪問看護指示書が交付された日から14日以内は毎日訪問看護を受ける事ができます。ではいくつかの事例を紹介します。
真皮を越える褥瘡や気管カニューレを使用している利用者さんは月2回まで特別訪問看護指示書を出すことが可能だよ。
ケアマネージャーが褥瘡を目にする事は少なくないですよね。特に寝たきりの利用者さんは注意が必要な状態です。その褥瘡は程度によって医療保険になるか介護保険になるかが変わります。医療保険で対応となる褥瘡は「真皮を越える褥瘡の状態」とされています。
真皮を越える褥瘡とはどういった状態の事なのでしょうか?ケアマネージャーが真皮を越えるかどうかの判断をすることはありませんが、どんな状態であるかについては知っておいた方がよいですよね。褥瘡の重症度を図るスケールは多くありますが、真皮を越える褥瘡の判断に、DESIGN-RとNPUAP分類が使用されています。専門的な言葉が多く使われていますが、イメージだけでも掴んでおく事が大事ですね。
DESIGN-Rの場合(D3~D5)
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を超え筋肉、腱などに至る損傷
D5:関節腔、体腔に至る損傷または、深さが判定できない
NPUAP分類の場合(Ⅲ度~Ⅳ度)
カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損
カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損
末期の悪性腫瘍以外の終末期にも特別訪問看護指示書が出された場合は訪問看護は医療保険での適応となります。悪性腫瘍に限らず、終末期の在宅ケアには訪問看護のケアが欠かせませんね。しかしこの場合は前述した通り、医療保険での訪問看護は月に最大14日以内なので、残りの必要な訪問は介護保険となります。
疾病が原因で退院後の生活が一変する利用者さんがいます。「酸素吸入が必要となった」や「人工肛門を造設した」等により、退院後の在宅生活が今までと異なる事で、予期しない困り事が発生する場合があります。そのような利用者に医師が特別訪問看護指示書を出した場合は、訪問看護は医療保険となります。
精神疾患を有する者を対象とした精神訪問看護基本療養費を算定する訪問看護を行う場合
精神科を標榜している保険医療機関から「精神科訪問看護指示書」が発行されている利用者については、要介護の認定を受けていても、医療保険の適応となります。しかし、認知症が主傷病である利用者の場合は介護保険で算定されます。(ただし医療機関が精神科在宅患者支援管理料を算定する利用者については、医療保険での算定となります。)
【番外編】入院患者の外泊中の訪問看護
医療機関に入院中の患者が退院に向けた一時外泊を行う際に、訪問看護が必要と認められる場合には訪問看護を利用する事ができます。その際の訪問看護は医療保険で提供されます。
要介護・要支援認定者であっても以下の場合は訪問看護が医療保険から提供される
・末期の悪性腫瘍や難病患者等の場合
・特別訪問看護指示書が出されている場合
・精神疾患を有する者を対象とした精神訪問看護基本療養費を算定する訪問看護を行う場合
訪問看護が介護保険になるか、医療保険になるか。これは利用者やケアマネージャーの希望で選べるものではありませんから、区分支給基準限度額の計算や費用の説明をする立場にあるケアマネージャーは、予め知っておく必要がありますね。では、次回はそんな訪問看護の番外編をご紹介したいと思います。
では、明日も適当に頑張りましょう。「ケセラセラ。」