BCPの作成努力義務のリミットが令和6年3月31日に迫っており、いよいよ、完全義務化になる日が近くなってきました。その作成に向けて多くの居宅サービス事業所が準備をされているのではないでしょうか?
多くの研修を受けて、BCPの作成の重要性を実感するところではありますが、今まで災害に直面したことがない居宅介護支援事業所にとって、災害現場で起こりえることについて想像しがたいかもしれません。
そこで、今回は災害時の困りごとについての情報をかき集め、まとめてみました。日本の被災支援活動は発展・成長していると思いますので、一部はすでには改善しているところはあるかもしれませんが、それでも具体的なイメージができるための一助にして頂ければ幸いです。
日本は海に囲まれ、火山の多い島国です。災害を回避することは難しいといえるでしょう。さらに、地球の環境変化により、予想を超える異常気象も頻繁に発生しています。その中でも我々居宅介護支援のケアマネージャーは災害時には大きな役割を担うことになります。自分が大事、家族が大事。もちろんです。しかし介護支援専門員としても、災害が発生した場合にできることについて一緒に考えていきましょう。
大きな災害になると避難所には多くの人が集まります。避難所には収容できる人数が限られていますので、避難所の収容能力の限界を超えると、他の避難所に移動しなければならないことが起こりえます。高齢者など、移動するだけで大変な人が、収容キャパシティの問題で、再び別の避難所へ移動することは避けたいところです。避難所の混雑状況などが可視化できるアプリなど導入している自治体もあるようです。このツールは効果的な避難計画の手助けをしれるでしょう。
避難所の運営は行政だけでなく、自治組織、避難者自身もその一員となりえます。誰もがそれを専業にしているわけではありませんので、大規模災害の発災後まもなくは非常に混乱していることが予想されます。行政職員、自治組織共に、被災者です。お互いの理解と協力が求められます。
介護が必要な人、特に認知症の利用者さんにおいては避難所の生活が馴染まない場合が多くみられます。認知症の7割近くの人が3日で限界を迎えたという報告もあります。認知症の方はみなさんご存じの通り、大きな環境の変化に適応することが難しい一面があり、それがきっかけに認知症が悪化する場合もあります。時には知らない間にいなくなってしまう場合もあるようです。そういった場合に備えて早くから福祉避難所へ移ることを検討しなければなりません。福祉避難所は介護施設等が指定されていることが一般的です。直接行っても、対応できない、また利用について条件を付与する場合もあることから、利用前に確認が必要です。
避難所では、簡易な仕切り等はありますが、完全な個室を作るための設備はまだ不足しているといえます。よって着替えやおむつ交換といったことを行うための環境は十分ではありません。避難所によってはそのような場所を特別に設けている場所もあるようですが残念ながら全てではありません。
認知症の利用者や重度介護が必要な方々は一般の避難所の環境になじむことが難しい場合があります。そのため、福祉避難所へ直接避難できれば望ましいですが、実際にはそのような避難所への移動に時間の遅れが生じる可能性があることを認識する必要があります。
国の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」では、福祉避難所への直接避難が重要であると強調されています。しかし、避難の手続きや、移動の調整などには時間がかかることがあり、福祉避難所へ移ることに時間を要する場合があります。このような状況を踏まえ、地域の関係機関や自治体は、認知症の利用者や重度介護の必要な方々の避難を支援するための対策を取っています。例えば、避難所でのケアスペースの設置や専門的な支援体制の整備などが行われています。ただし、まだ完全な解決策ではないため、個別の事例に応じた避難対策やサポートが必要です。
コロナウイルスの影響を受けて、災害時に自宅にとどまる選択をする人々が増えています。
避難所には、発災直後は混乱しますが、徐々に関係機関やボランティアが配置され、避難者の安全や福祉をサポートする体制が整っています。避難所では、避難者同士が情報交換や相談を行い、困難な状況に気づいたり支え合ったりすることができます。また、自治体や関連機関からの指示や支援も受けることができます。
一方、自宅にとどまる場合、その人自身や家族の力に頼ることになります。困難な状況においては、近隣の人々や地域の支援体制に依存することが難しく、必要なサポートや物資の配給を受けることが難しい場合もあります。
災害時には、自宅にとどまるか避難所に避難するかの選択は個々の判断によりますが、避難所には相互支援やサポート体制が整っており、困難な状況において頼りになる存在となることが多いです。避難所への避難を検討する際には、地域の指示や情報を参考にし、安全と福祉を最優先に考えることが重要です。
東日本大震災などの大規模災害になると、発災後は物流が混乱し、現地では、スーパーに物が並ばないといった事象がみられました。その要因として、物流の混乱はもちろんですが、ガソリンの供給不足や、生産している工場が被害を受けたり、それと共に、消費者の一時的な過剰な需要が高まり、一部では買い占めのような事象が起こりました。農林水産省のホームページでは、いざというときの備えの食料品の買い置きを、自宅での避難生活を想定して、最低でも3日、できれば7日間の備蓄が必要と掲載されています。こういった事象が起こりえるかもしれないことを踏まえて、食料品を備蓄しておくことが重要かもしれません。
東日本大震災ではガソリンの供給不足が深刻な問題となりました。大規模災害になると、ガソリンを供給する工場が被害を受ける、ガソリンスダンドが被害を受ける、一度に急激な需要過多の状態になるなどによって、ガソリン不足が引き起こされたと言われています。一般消費者にとって、ガソリンを備蓄できるのは、車でしかないため、普段からガソリンを満タンにしておく人が東北では増えたといいいます。
災害時には多くの人が電話を使用して安否確認を行うため、通信がつながりにくくなることが起こります。公衆電話も同様の影響を受けます。しかし、携帯電話のLINEなどのメッセージアプリは、電話と比較して通信が確立しやすいという報告があります。また、電話ができなくても、返信がなくても、既読がつくことから、安否確認の手段として役立つことがあります。
大規模災害は家族の形を変えてしまう大きなきっかけとなります。災害が発生すると、今まで3世帯で暮らしていた家族が分散し、小さい単位、例えば高齢者のみの夫婦世帯や単身世帯になる場合があります。特に仮設住宅での生活が必要な場合は、このような変化が顕著に現れます。人のかける目が減るため、家族の支援に頼ることが難しくなる部分については、介護保険によるサービスや他の社会資源の活用が必要になってきます。
大規模災害となれば、サービス提供側の多くもまた被災者です。よって、発災直後は通常通りに営業することは難しいといえるでしょう。また一部稼働している事業所があったとしても、優先順位をつけて、介護サービスのトリアージュを行うことが介護支援専門員に求められます。よって、利用者がこういった災害時どういった状況にあるのかについて、迅速に確認する必要があります。
発災後、事業を再開する事業所もあれば、サービスの提供継続が困難となり、廃止を余儀なくされる事業所もあるため、こういったことを想定した計画を立てる必要があるといえるでしょう。
災害の被害の規模はだれも正確に予測することはできません。
実際どんな事が起こるかわからないのに、いくら備えても備えきれないといったところが本音ではないでしょうか。
しかし、事前にどんなことが発生るのかを想像できたら、少しずつその備えの方法が見えてくるはずです。
今回紹介した「困りごと」はおそらくほんの一部です。
しかし、このことをきっかけにどんどん想像できる想定を増やして活発な意見交換を事業所で行って頂ければ幸いです。
みなさんの居宅介護支援の一助になればと思います。では、今日も適当に頑張りましょう。「ケセラセラ。」
★今回の参考文献